不規則な呼吸。
心電図の音。


廃人となった少女の肉体を維持するため
ありとあらゆる生命維持装置が
集中治療室の中で稼働していた。


少女は目を開いているが、
そこには光も意思もない。


少女の瞳はただの鏡のように、
目の前の天井を映し出している。


そんな病室のベッドに横たわる彼女を、
ガラス越しに眺めている、
二人の医者らしき男がいた。


「まさか、お前。
この王国に伝わるおとぎ話が
本当だって信じているのか」


「オレだって
最初は信じるつもりはなかったさ。
科学的根拠のないおとぎ話だからな。


でも、あの少女を見ると、
本当に魂が飛んでっちまったように
見えるんだ。


君も聞いただろう?


あの少女が国を救った
歴史上希に見る女の英雄だって。


それがどうだ。


ただの憲兵から
大将軍の勲章を与えられた途端、
あの勇ましい少女が
人形のようになってしまったんだ」



「そりゃあお前。


大将軍なんてとんでもなく
名誉ある役職だろ?


きっと、その分の責任感と重圧に
心が耐えられなくなって
しまったんじゃないか?」


「いやいや、それはないよ。
君も知っているだろう。
彼女はいくつもの戦場を
駆け抜けた人なんだから」


「じゃあ、本当にあの
おとぎ話の天使の仕業だっていうのかい?」


「確かな根拠はないけど、
この病院じゃウワサになってるよ。
きっとあの大将軍という役職も、天使様のお力を借りて手に入れたものなのさ」


「うーむ、確かに辻褄が合う話だ。
やはりこの世には人智を越えたモノが本当にあるのかもねえ」


「やっぱりキミもそう思うだろう?」



男たちは話しながら、
その場を去っていった。