また近いうちに雨が降りそう。

 放課後のグラウンドは蒸し暑くて、桜の木陰で陸上部の練習を見ているわたしの首筋にも、汗が滲んでいた。

 絵里に誘われたんだ。
 今日はバイトが休みで、森下くんを待って一緒に帰るから、由奈もつきあってくれない? って。

 昨日のこともあったし、どんな顔して颯ちゃんと話せばいいのかわからないけど……。

 やっぱり颯ちゃんのことが気になる。

 それに。颯ちゃんの走る姿を、見たい。

 そろそろ梅雨が近づいているのかもしれない。
 雨の日々が続くようになったら、外で走れなくなってしまう。

 ホイッスルの音が鳴り響く。

 颯ちゃんが走り出す。

 体育祭のリレーの時とも違う、たったひとりで勝負を挑む、鋭いまなざし。
 まっすぐにゴールだけを見つめている。

 トラックに並んだハードルを、軽々と飛び越えていく長い足。

 あっという間に駆け抜けていくから、瞬きしている間に、颯ちゃんがいなくなってしまう気がして。

 わたしは息をするのも忘れて魅入っていた。

「……わたし。どうして今まで、颯ちゃんの走る姿を見るの、避けてたんだろう」

 思わず、つぶやいた。

 中学の頃。大きな記録会のたびに、絵里が「三崎の応援に行こうよ」と誘ってくれていたのに。一度だけ、見に行ったっきりだった。

 走っている颯ちゃんは孤独で。強くて。輝いていて。