森下くんが去った後も、わたしはひとり、ベンチに腰掛けてぼんやりしていた。

 自覚、も、なにも。
 わたしが颯ちゃんにそんな感情を持つなんて、ありえないって思ってた。

 兄妹のようなもんだし、と、颯ちゃんも言っていたし。

 ちくりと、胸が疼く。

 いつも一緒にいるのが当たり前だった。兄妹のように近い存在だった。

 だからわたしは、こんなにも、颯ちゃんのことばかり考えているんだと思ってた。

 颯ちゃんが辛い思いをしていると想像しただけで、胸が痛くて、いてもたってもいられなくなる。

 それって。……それって。

 わたしは立ち上がった。

 風が吹いてクスノキの梢を揺らす。むせかえるような若葉のにおいが、わたしを包み込む。

 颯ちゃんの笑顔を。
 わたしの頭を撫でる大きな手を。
 苦しそうに歪んだ横顔を。
 わたしの名前を呼ぶやわらかい声を。

 思い出すと、どうしようもなく、切なくなる。
 泣きたいぐらいに、切なくなる。

 わたし、気づいてしまった。

 離れ離れになるかもしれないのに、……気づいてしまった。


 わたし、颯ちゃんのことが好き。


 森下くんのことも、もちろん、本当に好きだった。
 だけどそれは、あくまで憧れの延長で。まるで綿菓子みたいにふわふわした気持ちで、絵里に対して嫉妬して苦しくなったこともあったけど、こんなに、彼の力になりたい、苦しみを分かち合いたいって思ったことはなかった。

 もう、戻れない。

 もう、颯ちゃんを、ただの「幼なじみ」だなんて思えない。