昼休み。
お弁当もそこそこに、わたしはいつもの中庭のベンチに駆けて行った。
絵里には、おかしな誤解を与えないように、森下くんと話してくる、と、正直に告げてある。
颯ちゃんのことで心配事があるから、って。
ベンチに腰掛けた森下くんの、端整な顔に、クスノキの枝の影が落ちている。
わたしはそっと、森下くんの隣に腰掛けた。
不思議な気分だった。ふたりきりなのに、まったくどきどきしない。
ほんの二か月前までは、彼のことで頭がいっぱいだったのに。
「単刀直入に聞くけど。由奈ちゃん、颯太の家の事情、聞いたの?」
「やっぱり。森下くんも知ってたんだ……」
まあね、と、森下くんは言った。
「俺んち、いわゆるシングルマザーだからさ。俺も両親の離婚、経験してるし。ま、颯太も色々話しやすかったんだと思う」
「そっか」
ため息がこぼれた。
「わたしは、自分のお母さんから聞いたの。颯ちゃんは、わたしには何も相談してくれないから」
「それは……。颯太は、由奈ちゃんには心配かけたくないって気持ちが強いんだと思うよ」
「それって……、颯ちゃんが、わたしに壁を作っているってことでしょ?」
「そんなふうに感じるんだ? 由奈ちゃんは」
「わたしの前で無理してほしくないの。でも……、無理してほしくないって思ってること自体、わたしの勝手なわがままなのかもしれない」
わたしは、もしかしたら、力ずくで颯ちゃんの心をこじ開けようとしているのかもしれない。