翌日。

 泣きすぎて腫れぼったい目で登校したわたしを見るなり、絵里が、

「どうしたの」
 と、目を見開いた。

「大丈夫? まだ具合悪いんじゃないの?」

「わたし、そんなにひどい顔してる……?」

 遠慮がちに、絵里はこくりとうなずいた。

「ちょっとね、色々あったんだ」

 絵里に相談したいところだけど、颯ちゃんのプライベートに関わることだから、わたしが勝手に話すわけにはいかない。

 席について、テキストやノートを机の中に仕舞った。

 颯ちゃんの席のほうを、ちらっと見やる。

 陸上部の朝練があったのか、颯ちゃんはすでに登校していて、男子たちと楽しそうにふざけあっている。

 悔しくなるほど、「普段通り」。

 颯ちゃんは、そんなふうに、だれの前でも仮面をかぶって、泣きたい心を隠しているの……?


 昨日は結局、わたしが一方的に颯ちゃんに詰め寄って、泣いて、完全にひとりずもうだった。
 まるで、逆切れしてるみたいな感じで、颯ちゃんのこと置き去りにしてきちゃったし。

 わたし、こんなことでどうするんだろう。
 颯ちゃんがあの家に居られるのは、あと少しなのかもしれないのに。

 颯ちゃんが、……遠くに行ってしまうかもしれないのに。

 想像すると、胸がぎゅっと掴まれたみたいに苦しくなる。

 颯ちゃんと、離れてしまう。そんなの、わたし――。


「由奈ちゃん」

 呼ばれて、はっと我に返った。

「森下……くん」

「由奈ちゃん、颯太となんかあった?」

「ど、どうして?」

「さっき、颯太のこと見つめてたじゃん。すっごく切なそうな顔して」

「せ、せつな……!?」

 かあっと、顔が熱くなった。

 わたしはいったい、どんな表情を浮かべていたの?

「昼休み、ちょっと話そう」

 森下くんは、声をひそめた。

 森下くん、ひょっとして……。颯ちゃんから、何か聞いているの?