考えてみたら。

 颯ちゃんちのおばさんがすごく痩せていたのも。
 颯ちゃんがどこか沈んでいるように見えたのも。
 わたしに何か言おうとして、だけどためらって飲み込んでしまっているように見えたのも。

 きっと、すべて、このせいだったんだ。

 颯ちゃんのおじさんが出張ばかりで留守がちだというのも、本当は違うのかもしれない。

 ゆうべ見た夢を思い出す。

 金魚柄の浴衣を着たわたしと、甚平を着た颯ちゃん。

 あの頃は、颯ちゃんの両親も、仲睦まじかった。
 スタイリッシュできれいなおばさんと、すらっと背が高くて格好いいおじさん。
 優しく颯ちゃんの手を引いて、花火が始まると、颯ちゃんにも見えるように肩車してあげていたっけ……。

 胸が痛い。
 ぎゅっと絞られるように、痛い。

 隣に住んでいるのに、颯ちゃんのすぐそばにいたのに、わたし、ちっとも気づけなかった。 

 わたしはいつだって、自分のことでいっぱいいっぱいで。

 こんなわたしになんて、何も打ち明ける気になんかならないよね。

 だけどもう、わたしは知ってしまった。

 ベッドからすべり降り、着替える。

 一階に行って、顔を洗って櫛で髪をすいた。

 体調は、もう大丈夫。
 熱もないし、体も軽い。咳も鼻水もない。

 お母さんはキッチンにこもっている。

 気づかれないように、そっと家を出る。


 陽が傾いて、空はオレンジ色に染まっていた。
 そろそろ、颯ちゃんの部活も終わるころだ。

 スマホを取り出して、颯ちゃんにメッセージを送る。

“聞きたいことがあるの”

“部活が終わったら、子どもの頃秘密基地にしていた、橋の下に来て“

“わたし、ずっと待ってる”