「……え?」

 離婚?

 颯ちゃんちの、おじさんとおばさんが……ってこと?

「どうして? どうして急に……」

「急に、じゃないのよ。ずっとうまくいってなかったんですって」
「颯ちゃんは? 颯ちゃんは、どうなるの?」
「わからない。今の家は売ってしまうらしいから……。どっちについていくにしても、ここからは離れてしまうことになるでしょうね」
「そんな……」

 目の前が、すうっと暗くなっていった。

 今の家は売ってしまう。ここから離れる。

 お母さんの言葉が、ばらばらと矢のように降ってくる。

 颯ちゃんが、いなくなる。

 そんなことありえない。

 いつだって颯ちゃんは、わたしの近くにいたのに。隣にいたのに。

 いつだって……、わたしの、そばに。

「由奈」

 お母さんが、気遣うような、やわらかい声色でわたしの名前を呼ぶ。
 わたしの頭を撫でようと、伸ばした指に、銀色の指輪。

 わたしはお母さんの手を、はねのけた。

「……由奈」

「あっ……。ごめんなさい」

 拒否されたお母さんの表情に、戸惑いの色が浮かんでいる。
 だけど。

「わたし、信じない。颯ちゃん本人からちゃんと聞くまで、信じない」

 わたしはうつむいた。

 離婚、だなんて。

「ごめんなさい。……ひとりになりたい」

 頭の中がぐちゃぐちゃだった。

 お母さんは何も言わず、わたしの部屋を後にした。

 ぱたん、と、ドアが閉まる音。

「……あ」

 気づいたら、涙がひとすじ、わたしのほおを伝っていた。