次の日。
 まだ微熱が続いていて、病院で診てもらったわたしは、処方された薬を飲んで一日休んでいた。

 泥のようにぐっすり眠って、目が覚めるともう夕方。
 のっそりとからだを起こしてスマホを見ると、メッセージが来ている。

 颯ちゃんからだった。

 どきっとした。ゆうべ見た夢のことを思い出してしまって。

 あんな小さい頃のこと、颯ちゃんはきっと覚えていないよね?

“由奈。熱出たんだって?”
 と、ある。

“返信しなくていいから、ゆっくり休めよ”
 と、続いて。
 ……そして。

“由奈が元気になったら、話したいことがある”
 ……と。

 話したいこと?

 颯ちゃんが、わたしに?

 心臓が、にわかにどきどき脈打ちはじめた。

 話って、なに? 

 とりあえず何か返信しないと。
 明日には学校に行けそうだよと、スマホに文字を打ち込んでいる途中で。

 突然、ノックの音が響いた。

 不意打ちみたいなその音に心臓が跳ね上がって、何も悪いことをしているわけでもないのに、わたしはスマホをとっさに枕の下に隠した。

「ど、どうそ」

「由奈、具合どう?」
 ドアが開いてお母さんが入ってくる。

「だ、だいぶいい。熱も下がったっぽいし、明日は学校行けそう」
「良かった」
 お母さんは笑顔になった。

「でも、まだ油断しちゃだめだからね」 
 たしなめるように言うと、そっと、ベッドのふちに腰掛けて、ふうっと、大きなため息をついた。

「……由奈。颯太くんから、何か聞いてる?」

「颯ちゃんから? 何も?」

 話したいことがある。という颯ちゃんのメッセージが、脳裏をよぎる。

「お母さん、何か知ってるの?」

「……うん。じつはね」

 お母さんの表情が曇った。
 声も、さっきまでとはうってかわって、固い。

 わたしはぎゅっとシーツを握りしめた。嫌な予感がする。


「颯太くんち、離婚するんですって」


 意を決したように、お母さんはひといきに告げた。