颯ちゃんは車道側を歩いて、わたしに泥はねがかからないようにしてくれている。
 それだけじゃない、傘も思いっきりわたしの方に傾けて、濡れないように気遣ってくれている。
 だから、颯ちゃんの右肩は、雨に濡れている。

「ね。颯ちゃん風邪ひいちゃうよ。わたしはいいから、ちゃんと颯ちゃんも傘に入って?」

「いいよおれは。これぐらいで風邪ひくほどヤワじゃねーって」

「ダメだよ」

 強めに言うと、颯ちゃんは「しょうがねーな」とでも言いたげな顔をして。
 そして、少しだけ、わたしのほうにからだを寄せた。

 どきん、と。鼓動が大きくなる。

 そうだよね、ふたりとも濡れないようにするには、身を寄せ合うしかない。
 だけどこんなに近いなんて。こんなにどきどきしているなんて。

 わたし、変だ。

 颯ちゃんは、たんなる幼なじみなのに。

 兄妹みたいな存在なのに。

 今のわたし、まるで――。

「……っ、くしゅっ」
 いきなり、くしゃみが飛び出て、わたしは反射的に口を押えた。

「大丈夫? 寒い?」

 颯ちゃんが気遣ってくれるけど、どきどきしすぎて、わたしはまともに言葉を返せない。

「早く帰らないとな」

 うん、と答えたつもりだったけど、わたしの声はかすれて、ちゃんと颯ちゃんに届いたかどうかわからない。

 颯ちゃんはそれきり何も言わなかった。

 わたしも、何も言えなかった。

 雨は激しさを増していく。

 家に着くまで、わたしたちはひたすら、無言で歩いていた。ひとつの傘の中、ぎこちなく身を寄せ合って。