お弁当を食べ終えたあと、わたしたち3人は中庭に移動した。

 中庭には、みずみずしい葉を茂らせた大きなクスノキが生えていて、その木陰にベンチが置かれている。
 幸い、きょうは誰もいない。

 右から、颯ちゃん、わたし、絵里の順に座る。

「で、協力してほしいことって、何?」

 颯ちゃんはいきなりずばっと本題に切り込んだ。

「えっと。それは、その……」
 うつむいて、ひざの上に置いた両手の指先をもぞもぞさせて、口ごもってしまう。
 やっぱり恥ずかしい。

 いつまでたっても切り出せないわたしを見かねて、絵里が口を開いた。

「好きなんだって。森下智也のこと」

「……は? それ、マジ?」
 驚く颯ちゃん。 
 今にも顔から湯気を出しそうなわたしを見て、颯ちゃんは、
「……マジ、か」
 と、つぶやくようにひとりごちた。

「協力っていうのは、つまり、その、……智也と、由奈のことを」

 そこで颯ちゃんの声は途絶えた。

 さわさわと、クスノキの梢が揺れる。
 むせかえるような若葉のにおいに、なんだか胸が苦しくなってしまう。

 小さい時からずっと一緒にいる颯ちゃんに、こんな相談をする日が来るなんて思わなかった。

 だって、小学生のころまでは、わたしにいじわるをしたり、嫌なことを言ったりしてくる、「苦手な」男子のことを相談してたから。
 当時、ひとり、すごくしつこくわたしのことをからかってくる子がいたんだ。
 颯ちゃんが、その子からわたしをかばってくれたことも、強く言い返してくれたこともあった。
 そんな小学校生活を送ってきたせいで、わたしがずっと男子に苦手意識があったこと、颯ちゃんが一番知っていると思う。

 だから、今、すごくびっくりしているよね?

 無理もないよ。わたし自身も驚いているぐらいだもん……。

 長い、長い沈黙のあと。
 すうっと、息を吸い込む音がした。
 颯ちゃんだ。
 わたしと絵里、ふたりして、颯ちゃんの顔を見つめる。

「……あいつ、いい奴だよ」

 と、颯ちゃんは言った。