「言ってた……けど」

「じゃ、決定。放課後映画デートね!」

 にっこり笑うと、森下くんはちょっと照れ臭そうに頬を赤く染めた。

「絵里と映画行くの、はじめてだな」
 ぽつりと、つぶやく。

 ていうか、森下くん。絵里のこと、名前で呼んでる。いつの間に。

 わたしのことは「由奈ちゃん」と名前呼びだったのに、絵里のことはかたくなに苗字呼びしていた。
 きっと、最初から絵里のことを意識してたんだろうな。
 意識してたからこそ、気軽に名前で呼べなかったんだ。

「ていうか由奈ちゃん、雰囲気変わったよね」

 ふいにそんなことを言われて、わたしは思わず首をかしげた。

「明るくなったっていうか」

「そう……かな?」


 あいまいに言葉を濁す。
 それはきっと、わたしが、森下くんとしゃべる時に全然緊張しなくなったおかげだと思う。前は意識しすぎちゃってダメだった。 

 なんだか、わたし、バカみたい。
 あんなに「明るくなりたい」と思っていたのに。
 森下くんから気持ちが離れたとたん、それが叶うなんて。

 皮肉だなあと、心の中で苦笑した。