「じゃ、今度またゆっくりいらっしゃいね」
「はい」

 笑顔でうなずいて、颯ちゃんの部屋を出ようとしたとき。

「由奈ちゃん、この間はありがとう」

 ふいに、お礼を言われた。

「えっ? 何がですか?」
 心当たりがない。おばさんにお礼を言われるようなこと、何かしたっけ?

「バラのお花よ。私にくれたでしょう?」
「ああ、そういえば……」

 思い出した。
 おばさんがガーデニングのことをほめてくれていると聞いたわたしは、庭に咲いたバラのお花を、おばさんに、って、颯ちゃんに渡したんだった。

「本当に嬉しかったのよ。私ね、じつはその時、ちょっと落ち込んでたのよ。だから、お花をもらってすごく癒されたの」

 しみじみと、おばさんは言った。

「そ、そんな。大げさですって」

 まさかそんなに感謝されると思わなかったから、わたしはかえって慌ててしまった。

「母さん。もう帰るっつってんだから、そんなに引き止めるなよ」
 颯ちゃんが深々とため息をつく。
 はいはい、と、おばさんは苦笑する。

「じゃあ、お邪魔しました」

 ぺこりと頭を下げて、階段を降りた。
 颯ちゃんは「じゃーな」と言って自分の部屋にとどまったけど、おばさんは玄関まで来て見送ってくれた。

 にこにこと笑って手を振ってくれたけど、その手首が、びっくりするほど細くて、わたしはどきっとしてしまった。

 落ち込んでたって言ってたし……、体の具合、良くないのかな。

 それに。颯ちゃんも。
 さっき、やっぱりわたしに何か言いたそうにしていた。
 結局、あと少しのところで聞き出せなかったけど。

 妙な胸騒ぎがした。