どうして、君のことばかり。

「あんまり変わってないね」

 部屋に通されるなり、わたしは思わずつぶやいてしまった。

 モスグリーンの無地のカーテンも昔と同じだし、ベッドや本棚の位置も変わってない。もともとモノが少ない部屋だったけど、今は輪をかけて殺風景になっているような……。

「キョロキョロ見てないで、座れば?」

 颯ちゃんの顔が少し赤い。

「う、うん」
 わたしはローテーブルの前にぺたんと座った。

「で、どしたの」

「えっと、たいした用事じゃないんだけど。これ、作ったから……」

 パウンドケーキの紙袋を差し出した。
 颯ちゃんはとたんに目を丸くした。

「え? 作ったの? わざわざ?」

「ひ、ひまだったから。そういえばこれ、颯ちゃん好きだったなーって思って。ちょうどお母さんが仕事休みだったから作り方教えてもらって、それで……」

 妙にしどろもどろになってしまう。

 だって、自分でもどうして急に颯ちゃんのためにお菓子を作る気になったのかよくわからない。
 お母さんのケーキを食べた時、昔のことが急に懐かしくなって……。

「た、たんなる気まぐれだから」

 べつに大したことじゃない。

「なんかよくわかんねーけど、ありがと」

 紙袋を受け取った颯ちゃんは、中からケーキの包みを取り出した。

「まじでそのまま持ってきたって感じ」
 くすっと笑う。

「ご、ごめんね! 人にあげるものなのにテキトーすぎて」
 恥ずかしい。やっぱりちゃんとラッピングするべきだった……。

「いいって別に」
 ラップをはずすと、颯ちゃんは、ぱくっとひと口、ケーキを食べた。

「懐かしい。この、バナナがごろごろ入ってる感じ」

 しみじみとつぶやくと、ぺろりと、一切れ食べてしまった。

「めちゃくちゃうまい。サンキュ、由奈」
 ふわっと、颯ちゃんは笑った。