風が吹いた。クスノキの枝が揺れて、葉擦れの音がする。
わたしは無意識に、自分の心臓のあたりに手のひらを当てていた。
……なんなんだろう、この感じ。ざわざわするような、もやもやするような……。
胸の奥に生まれた「もやもや」は、なかなか消えなかった。
午後の授業は滞りなく進んでいく。
わたしは板書をする手を止めて、颯ちゃんの席のほうをちらちらと見ていた。
先生が構文の説明をしているけど、ちっとも頭に入ってこない。
頬杖をついてテキストに向かい合っている颯ちゃんは、いつもよりも心なしかぼんやりしていて、なんだか、気になった。
窓から吹き込んだ風を受けて、クリーム色のカーテンがふくらんで揺れている。
やっぱり、颯ちゃん。どこか元気がないように見える。
わたしの考えすぎ……かな?