昼休み、絵里と森下くんは、そろって、颯ちゃんにつきあい始めたことを報告した。
 教室は人がたくさんいて目立つから、中庭の、クスノキの下で。

 颯ちゃんは、
「おめでと。仲良くな」
 さらりと言うと、ペットボトルのお茶をごくりと飲んだ。

 いたって平坦なリアクションの颯ちゃんに、森下くんは拍子抜けしたように、
「はあっ? それだけ?」
 と、まぬけな声をもらす。

「俺、知ってたし。……由奈に聞いたから」

 ぼそっとつぶやく颯ちゃん。

 瞬間、公園でのことが脳内にフラッシュバックした。

 顔が熱い。

 思わずうつむいたわたしの顔を、絵里が不安そうにのぞきこんだ。

「由奈? 具合悪い?」
「い、いや、そんなことは」
「だって顔が真っ赤」
「そ、そんなことは」
 声がうわずってしまう。

「っつーか颯太も真っ赤なんだけど」
 森下くんがつぶやいた。

 恥ずかしくて颯ちゃんのほうを見れない。

「なに? なんなのこの空気?」

 森下くんは自分のあごに手をやって、わたしと颯ちゃんを交互に見やる。

「……なんかあった?」

 聞かれて。

「な、なにも!?」
「なんもねーよ?」

 わたしと颯ちゃんはほぼ同時に森下くんの素朴な疑問を否定した。
 声が重なって、つい反射的に颯ちゃんを見ると、颯ちゃんもこっちを見ていて、ばっちり目が合ってしまった。

「…………」

 気まずくて、すぐにそらす。

「あのさあ」
 おずおずと、森下くんは口を開いた。

「ひょっとして、颯太と由奈ちゃんもつきあい始めた?」

 な。なんてことを!

「ありえないから!」

 即座に、否定する。颯ちゃんは、飲んでいたお茶がおかしな場所に入ったのか、ごほごほとむせている。

「ほんとーに?」

「本当に! ありえないから!」

 ふーん、と、森下くんはなぜかちょっと不服そうしている。

「そこまでムキになって否定することないのに。見てよ、颯太のやつ、ちょっと傷ついた顔してるよ」

 森下くんがそんなことを言うから、ちらりと見やった颯ちゃんの表情が、ほんとに沈んでいるように見えてしまう。

「べつに傷つかねーよ」

 颯ちゃんは、やれやれと言いたげに、ため息をついた。

「智也もいつまでもくだらねーこと言ってんじゃねーぞ?」

 そっけなく言い放つと、颯ちゃんは立ち上がった。

「俺たちは幼なじみだから、たしかに普通の友達よりも近い関係だとは思う。だけど、それだけだから。今後、いっさい、そういうおかしな勘繰りはするなよ?」

 森下くんに言い含める。

 颯ちゃんの言う通り。
 わたしたちはたんなる幼なじみだから、付き合うなんてありえない。

 わずかに、ちくりと、胸が疼く。

 どうして? 自分だって、さっきはムキになって否定したくせに。絶対ない、って。ありえない、って。

 颯ちゃんは、絵里に「智也をよろしくな」と言って笑顔を向けると、先に教室に戻っていった。