昼休みになっても胸のあたりが苦しくて、ため息ばかりついてしまう。

 あっという間にクラスの中心人物になってしまった森下くんの明るい声が、教室中に響いているから。
 というか……、もしかして、わたしの耳が彼の声を勝手に拾ってしまってるのかも。

 いっこうにお弁当を食べはじめる気配のないわたしを見て、絵里は眉を寄せた。
「具合悪いの? 保健室行く?」
 わたしはゆっくりと首を横に振った。

 絵里に相談してみようか。でも、でも……。

 ずっと一緒にいるわたしたちだけど、恋バナをしたことは、ほとんどない。
 わたしは男子が怖かったし、絵里も、好きなひとがいる気配がまったくなかった。
 絵里と仲のいい男子はいっぱいいるけど、どの子もあくまで「お友達」。特別じゃない、さばさばした関係だった。

「あのね、じつは、ね……」

 だからなんだか恥ずかしくて、もごもごと口ごもってしまう。

「悩みでもあるの?」
「う、うん」
 顔が熱い。絵里は根気よくわたしが本題に入るのを待ってくれている。

「その。わたし、好きなひとができた……」

 消え入りそうにかぼそい声でつぶやいたのに、絵里の耳はちゃんとわたしのせりふを拾ってくれたみたいで。
 大きな瞳を、更に大きく見開いて、おはしから卵焼きを取り落としてしまった。

「え、絵里っ。卵焼き」
「まじで?」
 絵里はじっとわたしを見つめている。
 わたしはうなずくしかなかった。
「だ、誰?」
 森下くんの名前を呼ぶのが恥ずかしくて、わたしは、窓際の席で男子たちとふざけている森下くんのほうを、そっと指さした。

「うそ。森下智也……?」
 絵里が声をひそめる。
 わたしは小さくうなずいた。

「はーっ。まじか」
 絵里はなにか考え込むように腕組みした。
「あたしはてっきり、三崎かと……」
「え?」
「あ。ううん、なんでもない。ちょっと意外だったから」
「そうかな」

 森下くんのことを好きになる女子はいっぱいいるだろうし、わたしもきっとそのひとり。でも、やっぱり身のほど知らずだよね。

「わたし、どうしていいかわかんないの。こんな気持ち初めてだし、わたしみたいな地味な子が、あんなキラキラした男子を……」

 自分で言ってて泣きそう。