それから、絵里とふたりでいろんな話をして。
 グラウンドに出て、一緒に、陸上部の練習が終わるのを待った。

 目立ってしまうのが嫌だから、気づかれないぐらいの距離をとって、遠巻きに練習風景を眺めていた。

「森下くんがかわいそうだから、一刻も早く話をして」
 って急かすわたしに、絵里は
 「今はちょっと」
 とか言ってしぶるから。
 こうなったら、絵里を引きずってでも、森下くんに引き合わせるしかないって思ったんだ。

 わたしだって、そのほうが、すっぱりとあきらめがつくから。

 日が傾いて空がオレンジ色に染まるころ、陸上部の練習が終わった。

 やがて、森下くんと颯ちゃんが、着替えを終えて部室から出てきた。

「森下くんっ」

 即行で、呼び止める。

「絵里が、話があるんだって!」

 すかさず、絵里の背中を押した。
 はずみで絵里は、森下くんの目の前に、進み出た。

「じゃあ、わたしたちは先に帰ろう?」

 ぽかんとしている颯ちゃんの、カッターシャツの袖をつまむ。
 そのまま、颯ちゃんを引っ張るようにして、ずんずんと歩いていく。

「ちょ、由奈……?」

 戸惑っている颯ちゃんの声。
 わたしは何も答えず、無言のまま、グラウンドを抜けて学校の敷地を出た。

「何なんだよ、説明しろって」

「…………」

 説明、できない。
 立ち止ってしまったら、わたし、きっと……。

「由奈。泣いてるのか……?」

 泣いてないよ。
 ……泣いてないよ、まだ。

 わたしはそっと、颯ちゃんの袖から、手を離した。
 颯ちゃんはもうそれ以上なにも聞かず、ただ、わたしの少し後ろを歩いてくれている。

「……颯ちゃん」
「ん?」
「甘いもの、食べたい」