平静を装っているけど、絵里の声、わずかにふるえている。
 胸がぎゅっと苦しくなった。
 絵里。強がっているけど、絶対に怖いよね。悔しいよね。

「しらばっくれないでよ」
 川原さんの声が荒くなった。

「めちゃくちゃむかつく! さばさばして男に興味ありませんって顔して、ひとの好きなひと取るとか、最っ低!」

 ヒステリックな声をあげると、川原さんは、絵里の肩を手で押した。
 そのまま、絵里は後ろに倒れこんでしりもちをついてしまった。

「絵里……!」

 絵里、涙を浮かべてる。
 それを見た瞬間、わたしの中の何かが、ぷちんと音をたてて切れた。

「絵里に、何すんのよっ!!」

 叫びながら、校舎の影から飛び出す。

「絵里に謝って!」

 勢いにまかせて、川原さんにつかみかかった。

「ちょ、なんなの? 葉山さんは関係ないじゃん」

「関係あるし!」

 めちゃくちゃ関係あるよ。だって。

「わたし、絵里の親友だもん!」

 鼻の奥がつんとして、目頭が熱くなる。
 泣くもんか、泣くもんか。

「森下くんを取られたなんて、川原さんの被害妄想だよ! 最初から、森下くんはだれのものでもないんだから!」

 もとカノの川原さんのものでも、もちろん、わたしのものでもない。誰が先に彼を好きになったとか、関係ない。

「森下くんが自分の意志で絵里を選んだの。だから、二度と絵里にひどいこと言わないで!」

 川原さんの目に、みるみるうちに涙が盛り上がっていく。

「だって。だって、あたし……」

 ぐすんと鼻をすすると、川原さんはわたしから目をそらした。

「……認めないから、吉井さんのこと」

 ぼそっとつぶやくと、川原さんたち3人は、その場から立ち去って行った……。

 わたしはぼうせんと立ちすくんでいた。
 自分で、自分のことが信じられない。

「…………由奈」

 絵里が、ゆっくりと立ち上がる。

「え、絵里。どうしよう、わたし、川原さんにつかみかかっちゃった」
「う、うん」
「信じられない。わたし、あんなふうに誰かとけんかしたの、初めて……」
 今さらのように、足がふるえた。

「ありがとう、由奈。こんなあたしを、まだ親友って言ってくれて」

 絵里。……泣いてる。

「ごめんね、ごめんね、あたし」
「うん」
「あたし、森下のこと好きになっちゃった。ごめんね……っ」

 わたしは絵里の頭をぽんぽんと撫でた。
 やっと本音を打ち明けてくれたね。
 こんなに心細そうに泣いている絵里、はじめて見たよ。

「謝らないで。言ったじゃん、森下くんが絵里のことを選んだの」
「……ん」
「絵里は、ちゃんと素直になって、森下くんに本当の気持ちを言うんだよ?」
「でも、それじゃ」
「いいの。わたしは絵里に、幸せになってほしい」

 スカートのポケットに入れていた、折りたたんだルーズリーフ。
 取り出して、絵里に渡した。

「これ、わたしの気持ち」

 にっこり、笑う。

 絵里と、ずっと、親友でいたいから。