川原さんたちと一緒に、絵里は教室を出ていく。

 わたしはこっそりあとをつけた。
 川原さんたちが今まで絵里に向けていた、敵意丸出しの視線を思い出すと、気が気じゃなかった。

 川原さんたちと絵里は、校舎の突き当りまで来ると、ドアを開けて非常階段を降りていく。
 心臓がどきどきしている。
 見つからないように距離をとって追いかけていくけど、階段を踏む足が細かくふるえて、踏み外さないようにするので精一杯。

 非常階段を降り切って、ちょうど体育祭の時に絵里が休憩していた、桜の木の陰になるところで、川原さんたちは絵里を囲んでいる。

 まわりにほかの生徒はだれもいない。
 吹奏楽部のロングトーンの音が、時おり鳴り響くだけ。

 校舎の影に身を潜めて、息を詰めて見守った。

「ってかさあ。吉井さんって、森下くんとつきあってんの?」

 島田さんの声だ。

「つきあってないけど」

 絵里。どくんと心臓が鳴る。

「じゃ、好きなわけ?」

「好きじゃ、ない」

 ……絵里、まだ意地をはってる。
 というか、この状況で本音なんか言えるはずないけど。

「だったら、トモくんに近づくの、やめてくれない?」

 森下くんのことを「トモくん」と呼んだのは、川原さんだ。

「目ざわりなんだよね、トモくんにまとわりついて、色目使って」

 い、色目……?
 あまりの言いように、頭がかっと熱くなる。
 川原さんたち、なんの権利があって、絵里にそんなこと言うの……?

「全然心当たりないんだけど、川原さんたち、なにか勘違いしてない?」

 絵里が答える。