休み時間も、わたしはひとりで過ごしたし、昼休みもひとりで中庭に出てお弁当を食べた。
 絵里も教室から出て行っていたから、きっとどこかでひとりでお昼を食べたのかもしれないし、もしかしたら他のクラスの友達と一緒に食べたのかもしれなかった。

 絵里は、誰にでも好かれる子だから。
 ……森下くん、にも。

 じわりと、涙が浮かんで。手の甲であわててぬぐう。

 中庭の木の下のベンチで、ひとりお弁当を食べて涙ぐんでるなんて、わたし、悲しすぎる。せめて「何でもありません」って顔をしていよう。

「由奈」

 声が飛んできて、びっくりしておはしを取り落としそうになってしまった。

「颯ちゃん」

 颯ちゃんはわたしのそばに来て、「にっ」とほほ笑んだ。

「卵焼き、まだ食ってねーの? 食べないんなら、おれにくれよ。おばさんの卵焼き、めちゃくちゃうまいんだよな」

「えっ……。やだよ」

 あわててお弁当箱をさっと隠すと、颯ちゃんはくくっと笑った。

「食欲はあるみたいだな。じゃ、大丈夫か」

「どういう意味? それ」
 むっとふくれて、颯ちゃんをにらんだ。

 でも、たしかにわたし、失恋して親友ともケンカしてしまった、こんな最悪の状況で、ちゃんとごはんを食べている。

 颯ちゃんはわたしの隣に腰掛けた。

「吉井と、なんかあった?」

「どうして、なにかあったってわかるの?」

「まるわかりだよ。いつも一緒にいたくせに、こんなところでひとりでメシ食ってるし」

 わたしは、ふうっと息をついた。

「森下くんが、絵里に告白したの」

 ひといきに告げると、颯ちゃんは目を丸く見開いた。
 知らなかったんだ、森下くんの気持ち。

「それで、吉井は、何て」

 わたしはゆっくりと首を横に振る。

「断ったんだって。でも」
「でも?」
「でも、絵里はほんとは、森下くんのことが好きなんだと思う……」

 風が吹いて、頭上にある木々の梢が、ざあっと音を立てて揺れた。

「わたしのためにうそをつかれたって、ちっともうれしくないのに」
 自嘲気味に、わたしは少し笑った。

「本当の気持ちを教えてっていっても、ずっと隠していたんだよ。親友なのに」

「それは、」

「わかってる」

 口をはさもうとした颯ちゃんを、さえぎる。

「頭ではわかってるの。絵里がわたしに言い出せなかった気持ち。わたしが逆の立場だったらって思ったら……やっぱり言えなかったかもしれない。頭ではわかってるの。でも」

 でも……。

「心が、ついていかない」

 わたしはそれきり口をつぐんだ。

 颯ちゃんは何も言わず、ただ、わたしのそばにいてくれる。