別館校舎から離れて、むちゃくちゃに走って、気づいたらグラウンドに来ていた。

 運動部の生徒たちのかけ声や、ホイッスルの音があちこちで響いている。

 立ち止まって、息を整えようとしたけど、いやな動機はなかなかおさまってくれない。

 陸上部も練習しているのかな。
 森下くん、部活は休んだのかな。絵里と大事な話をするために……。

 どうしよう、颯ちゃん。
 わたしは無意識に颯ちゃんの姿を探していた。

「由奈!」

 絵里の声が背中に刺さって、わたしはびくっと肩を震わせた。

 ゆっくりと、ふり返る。
 わたしに追いついた絵里が、わたしの制服の袖をつまんだ。

「ご、誤解、だから」
 息を切らしながら、絵里は必死に訴える。

「誤解もなにも、告白されたんだよね? 絵里」

 森下くん「振られた」って言ってたもん。絶対に、聞き間違いなんかじゃない。

「いつ? いつ告白されたの?」

「……昨日」
 かぼそい声で、絵里は告げた。

 それですべて合点がいった。
 絵里が真っ赤になっていた理由も、森下くんを避けていた理由も。

「で、でもっ! 断ったからっ!」

 絵里はわたしの顔を見つめた。泣きそうな目で。

「どうして断ったの?」

 自分の声が、びっくりするほど冷たく響いた。自分でもうろたえてしまうほど。
 でも。

「付き合えばいいのに」

 止まらない。

「付き合えば、って……。そんなことするわけないじゃん。だって」

「だって、なに? わたしが森下くんのことを好きだから?」

 絵里はきゅっとくちびるを引き結んだ。
 その大きな瞳は、潤んで。今にも涙がこぼれそう。

「絵里も、森下くんのこと、好きなんでしょ?」

「そ。……んな。違うよ。好きじゃないって言ったじゃん」

「お願い。うそをつかないで。わたし、わかるもん」

 わかるよ。
 ずっと絵里の隣にいたから。
 絵里がためらいがちに森下くんの話をするとき、少しだけ声が切なげで。
 なのに不自然なほど彼のことを避けて、嫌われるような態度をとって。

 昨日だって、……真っ赤になって、戸惑ってて。

 今まで、絵里のあんな顔、見たことがなかった。

「正直に話して、って、言ったのに」

 絵里は何も言わない。

「そんなふうに気遣われても、ぜんぜんうれしくない!」

 わたしは叫ぶと、絵里を置いて、その場から走り去った。