先に帰ったはずの絵里が、森下くんと一緒にいる。

 どくどくと波打つ心臓。
 なんで、どうして、こんな人目につかない場所に?

 森下くんの低い話声が聞こえる。
 わたしは息を詰めて、彼の声を拾った。

「なんで避けるんだよ。普通にしよう、友達でいようっつったの、おまえじゃん?」

「……避けてないし」

 絵里の声。

「俺、努力してるつもりなんだけど? 振られたけど、あきらめていい友達でいようって、がんばってんだけど?」

 振られた? って、言った? 今。

「なのに無視されてるとか、バカみてーじゃん。もう2度とかかわりたくない、話しかけるなってんなら、はっきり言ってくれ」

 待って。どういうこと?

 森下くんが、絵里に? 振られたの?

 ごとんと音をたてて、わたしの手からじょうろがすべり落ちる。半分ほど入っていた水がこぼれて、わたしのローファーを濡らした。

「由奈?」

 絵里がはっとしたような声を上げた。

 目が合う。
 わたしは、じりじりと後ずさりした。

「ご、ごめん……。その、たまたま見かけて、それで」

 自分の声がわなわなと震えているのがわかる。
 とっさに浮かべた笑顔がひきつっていることも、わかる。

「じゃ、じゃあねっ」 

 耐え切れなくて、わたしはその場から駆け出した。転がるじょうろはそのままに。