一日中、絵里の様子はおかしかった。

 森下くんも。
 授業中、彼の姿をこっそり見つめていたけど、頬杖をついてぼんやりして、全然集中していない感じだった。

 休み時間になると、森下くんは絵里の様子を気にして、話しかけようとするけど、絵里は何もこたえずに自分の席を立ってどこかに行ってしまう。

 昨日はふたりとも明るくて屈託なかったのに。

 森下くん、絵里のバイト先に行くって言ってた。そこで何かあった……?

 絵里に「けんかしたの?」って聞いてみたけど、「ううん、そんなことないよ」とすぐに否定。

 気になったけど、絵里がそれ以上わたしに打ち明けてくれることはなかった。

 そして、放課後。
 日直だったわたしは、残って日誌を書いていた。
 日誌なんて適当に書けばいいんだろうけど、要領の悪いわたしはちまちまと時間がかかってしまうから、絵里には、先に帰ってもらっていた。

「ふう……」
 書き終わり、窓を閉めて教室をあとにする。
 職員室に寄って日誌を提出し、校舎を出た。

 まぶしい光が、まぶたを刺す。

 用務員さんが、花壇の花たちに水をあげていた。

「あの。わたし、手伝います。お花の世話、好きなので」
「おお。ありがとう。助かるよ。じゃあ、別館のほうの花壇に水をあげてくれるか?」
 はい、と返事をして、大きなじょうろを持って、別館校舎のほうに回った。

 いきなり、自分から水やりの手伝いを申し出るなんて。わたしは、気晴らしをしたくなったのかもしれない。

 別館そばの手洗い場でじょうろに水を入れる。ホースを持って来ればよかったな……と、考えていたところで。

「森下くん……?」

 別館校舎の裏に、よく知った人影があることに気づいた。

 絶対に森下くんだ、いつも見てるから間違えたりしない。

 何してるんだろうと、ちょっとのぞくと、

「絵里……?」

 わたしはとっさに校舎の影に身をかくした。