今日の絵里は、ずっとこの調子。
 川原さんたちを気にしてぴりぴりしているわたしとはちがって、ぼんやりとして、心ここにあらず、というか。

「由奈ちゃん」

 話しかけられて、どきっとした。
 森下くんだ。颯ちゃんと一緒に、ノートを突き合わせて問題を解いている。

「な。なに?」
 珍しい。絵里じゃなくて、わたしに声をかけるなんて。

「問2、わかる? 俺、今日絶対当たるんだよね」
「えっ。えっと……」
 わからない。
 わたし、数学は苦手なんだ。
 というか、数学「も」と言ったほうが正しいけど……。

「絵里、わかる?」
 森下くんから受け取ったテキストを、広げてみせた。

「…………」

 絵里は、押し黙っている。

「絵里……?」

 どうしたの? 顔が真っ赤だ。

 森下くんが、そんな絵里のことを、じっと見ている。

 絵里が森下くんの視線に気づいて、ふたりの視線がぶつかり合う。
 瞬間、はじかれたように絵里は顔をそらすと、がたんと席を立った。

「え? ど、どうしたの?」

「ごめん由奈。あたし、保健室行ってくる……っ」

 絵里は教室を出て行ってしまった。

 なぜ? いったい、何が?

 わけがわからないまま、森下くんのほうをちらと見やると。

 森下くんは、きゅっと口を引き結んで、うつむいていた。

 どきりとした。

 森下くんの頬も……、赤く染まっていたから。