川原さんたちが何か嫌がらせをしたり無視してきたりするかも、と、身構えていたけど、その日も次の日も、特に何もなかった。

 わたしの考えすぎだったのかもしれない。

 わたしは中学の時、川原さんみたいな、クラスのリーダー格の女子に目をつけられたことがある。
 掃除とか、委員会の仕事とか、面倒な仕事を、「習い事で忙しい」とか「塾で忙しい」とか言われて、何かと押し付けられていた。
 鈍いわたしは、純粋に、その子の「忙しいから」という言葉を信じていた。

 だけど、偶然聞いてしまった。

 その子たちが影でわたしを悪く言っているのを。

 おとなしくて行動が遅いのが見ててイライラする、って。
 仕事押し付けてるのにへらへら笑ってバカじゃない? って。

 そういうことがあったから、ああいう気が強そうな子たちに対して、わたしは気おくれしてしまう。
 はっきり言ってしまうと、怖い。

 だけど、あの時は、わたしの隣に絵里がいた。

 悪口を聞いてしまって、ショックを受けて、ただただ涙を流すわたしの代わりに怒ってくれたのは、絵里だった。

「由奈のこと悪く言ったら許さない!」って。
「由奈に謝ってよ!」って。

 今にもつかみかかりそうな勢いだった。

 絵里がかばってくれたことは、本当にうれしかった。

 退屈な授業が終わり、休み時間になった。

 わたしは絵里の席へ向かった。
 絵里は、頬杖をついてぼんやりしている。

「絵里。絵里。……絵里っ」

 何度か呼んで、やっと絵里はわれに返った。

「あっ……、ごめん。ていうか、いつの間に授業終わってたの?」

「大丈夫? 眠いの?」

 ううん、と、絵里は首を横に振った。