促されて、リビングのソファに腰掛ける。絵里は、よく冷えたアイスティーを出してくれた。

「外、暑かったでしょ? 冷たいほうがいいよね?」
「うん。ありがとう」

 ふたりでアイスティーを飲みながら、マドレーヌを食べる。

「絵里。昨日のことだけど……、森下くんに、ちゃんとお礼言った?」

 森下くんの名前を呼ぶとき、緊張で胸がどきどきした。

 絵里は小さくうなずいた。

「あたし、じつは倒れたときのことをあんまり覚えてなくて。気が付いたら救護テントに居たからさ……。あとでママたちに森下のことを聞いて。めちゃくちゃ申し訳なくって、体調が落ち着いてからラインした」

「ラインだけ? 電話は?」
「しないよ」
「ちゃんと電話でお礼言いなよ。森下くん、すっごく心配してたし」
「……ん。明日学校で直接言うよ」
 絵里はもごもご答えると、アイスティをこくりと飲んだ。

「わたし、森下くんに聞いたんだ。森下くんって、お仕事で忙しいお母さんを助けて、家事をしてるんでしょ?」

「そう、みたいだね」

 絵里はグラスをローテーブルに置いた。からんと、氷のぶつかる音がする。
 わたしはすうっと息を吸い込むと、絵里の目を、じっと見つめた。

「単刀直入に聞くけど。絵里、森下くんとふたりで会ったりしてる?」

「……え?」

「森下くんが、そういう感じのことを言ってたから……。妹さんが絵里になついて、って」
 ふたりのときは楽しくていい奴なのに、とも言っていた。

「ああ」
 と、絵里はわたしからわずかに目をそらした。

「森下が妹とふたりでスーパーで買い物してるとこを、偶然見かけてさ。今から夕ご飯つくるとか言ってて。それで初めて、森下んちの家庭の事情的なこと、知って。そしたらその、妹ちゃんがね、お兄ちゃんとふたりでごはん食べるの寂しいから、おうちに来て、とか……あたしに言ってさ」

「……家、に」