「おっはよー、颯太っ!」

 この、声。心臓がどきんと跳ねた。

「離れろ智也。重い」
「もー、颯太ってば、素直じゃないんだからー」

 颯ちゃんにいきなりバックハグしているのは、森下、智也、くん。
 心の中で名前を呼ぶだけで、どきどきしてしまう。

 森下くんはいたずらっぽく笑うと、颯ちゃんのわきの下をくすぐりはじめた。

「おわっ。やめろって、智也」
「やめねーよっ。颯太の唯一の弱点だもんなー」

 無邪気にからから笑う森下くんの、茶色がかった髪が、さらりと揺れた。

 少女漫画の中から飛び出してきたみたい……。

 柴犬みたいにくるっと大きな瞳に、すっと通った鼻筋。細い顎。
 まるで、王子様系アイドルだよ。

「朝イチでこちょこちょ攻撃とか、ガキくさ」
 絵里が鼻で笑った。

 アイドル系イケメンの森下くん相手でも、絵里の態度は変わらない。
 クラスの、ほかの女子たちはみんな、颯ちゃんと森下くんのツーショットにくぎ付けなのに……。

 そう、このふたり。クール系の颯ちゃんと、王子系の森下くんのコンビ。セットで人気があるみたい……なんだよね。

 森下くんは、わたしたちとはちがう中学出身なんだけど、颯ちゃんとは同じ部活――陸上部で、あっと言う間に仲良くなったみたい。

「ガキで結構」
 森下くんがこちょこちょ攻撃をやめて、ふわっと、前髪をかきあげた。にいっと、笑っている。

 直視できなくて、わたしは目をそらした。