翌日は、体育祭の代休で、学校はない。

 わたしは庭に出て、咲いたばかりの花と、さわやかな香りをまとっているハーブを摘んで、小さなブーケを作っていた。

 今から、絵里の家へお見舞いに行く。

 今朝、「具合はどう?」ってメッセージを送ったら、「大丈夫。ずっと寝てなきゃいけないからヒマだよ」と返信がきた。
 それなら……ということで、午後から少しお邪魔することにしたんだ。

 小さなブーケと、近くのお菓子屋さんで買ったマドレーヌを手に、家を出る。

 心臓がどきどきしていた。

 颯ちゃん、わたし、がんばるよ。
 絵里に、直球を投げてみる。本当の気持ちが知りたいよ、って。

 絵里の家は、国道沿いの大きなマンションの5階だ。
 インターフォンを押すと、部屋着姿でリラックスした様子の絵里が出迎えてくれた。

「ごめんね由奈、心配かけちゃって」

「ほんとだよ、だからあんなに無理するなって言ったのに」

 ふくれてみせたら、絵里は「ごめんっ!」と顔の前で両手を合わせた。
 よかった。顔色もいいし、ほんとに体調は良くなったみたい。

「今ね、家にあたしひとりなんだ。あたしが元気そうだからって、パパもママも仕事に行っちゃってさ。兄貴たちも学校だし」
 そう言って、絵里はわたしをリビングに通した。

「これ、おみやげ」
 マドレーヌの箱と、ブーケを渡す。
「わあっ……。ありがとう。すぐにお茶淹れるね」
「あっ、いいよいいよ、寝てて!」
「もう飽きるほど寝ちゃったもん。そろそろ動かないと」

 いたずらっぽく笑うと、絵里は早速花瓶にわたしの摘んだお花を生けた。
「すごくいい香り……」
 お花に顔をうずめるようにして、絵里はうっとりと目を閉じている。

「懐かしいなあ。小学校の頃から、由奈、あたしが熱を出して休んだりすると、お花を摘んで持ってきてくれたよね」

「お見舞いといえばお花でしょ、みたいな。なんとかのひとつ覚えなんだよね、わたし」
 茶化した風に言うと、絵里は、

「あたし、すごく嬉しかったんだよ。由奈があたしのために大事なお花を摘んで、わざわざ届けてくれたって思ったら……」
 と、微笑んだ。

「そんな、大したことじゃないのに。絵里ってば、大げさだよ」
 なんだか照れくさい。
 ほんとうに、大したことじゃないのに。