「懐かしいな、ここ」

 ふたりで寄ったのは、小学生の頃しょっちゅう遊んでいた、河川敷。

 土手にはやわらかな草が生えていて、ところどころにたんぽぽやシロツメクサの花が揺れている。

 ふたり並んで、土手に座った。

 川面にひかりが反射して、きらきら光っているのが見える。

 夕暮れが近くなってきたせいか、日差しもずいぶんやわらいで、川から吹き渡る風が心地いい。

「ここでサッカーしたり野球の練習したりしてたな」
 颯ちゃんは目を細めた。

「颯ちゃん、ゲーム持ってきてひたすらやってたこともあったじゃん。家でやればいいのにって思ってた」

 わたしがそう言うと、颯ちゃんは「だな」と笑った。

「由奈はいつも、土手の花を摘んでたよな」
「そう……だったかも」
「それから、あそこ。秘密基地とか言って、宝物とかまんがとか、いろいろ隠してたな」
 颯ちゃんが指さしたのは、大きな橋の下の、影になっている場所。
「でも、雨が降って川が増水しちゃって、宝物ぜんぶ流されたよね?」
「だったな。ほんと、バカだったなー」
 颯ちゃんがしぶい顔をしたから、わたしはつい、笑ってしまった。

 あの頃はよかった。

 こんな胸の痛みも、振り払っても振り払ってもまとわりついてくる、黒い嫉妬も。

 あの頃はまだ、知らなかった。

「……あのね、わたし」

「うん」

「不安なんだ。森下くんが、絵里のことを、好きなんじゃないかって思ってて」

「……智也が?」

「うん。絶対、そうだと思う」

 言葉にすると、自分の中で、まだもやのように曖昧だったその疑惑が、しっかりしたかたちを持ってしまった。

 確信に、変わった。

「だって森下くん、いつだって絵里にばっかりかまうし、4人でいても絵里にばっかり話しかけるし、今日だって……っ」

 言葉が堰をきったみたいにあふれ出す。

「絵里の体調が悪いことに、すぐ気づいてたし。すごく心配してたし。絵里が倒れたとき、まっさきに助けに行ってた。たぶんあの時、森下くんの頭の中から、リレーのことなんて吹き飛んでた」