救護テントに運ばれた絵里は、その後、お父さんとお母さんに連れられて早退した。

「軽い熱中症らしい。……智也が言うには」

「……ん」

 うなだれたわたしを見て、颯ちゃんは、

「大丈夫だって。明日代休だし、さすがの吉井も無理せずにゆっくり休むだろ」

 と、励ますように肩をぽんと叩いた。

 体育祭が終わったあとも、まだ学校中の生徒が興奮さめやらぬ感じで。特に3年生は今年で最後だからか、いたるところで応援合戦の衣装に着替えて写真を撮り合っていた。

 リレーでヒーローとなった颯ちゃんは、帰りのホームルームのあと、教室でみんなにもみくちゃにされていた。
 だけど、そっとその場を離れてひとり帰ろうとしたわたしに気づいて、追いかけてきてくれたんだ。

 一日中強い日差しにさらされていたせいか、頬がほてって熱い。

 やけどしたように、胸の中がひりひりと痛む。

 いつもの帰り道。

 何も言わないわたしの隣を、颯ちゃんは歩いてくれている。
 ゆっくりと、わたしの歩幅に合わせて。あんなに速く走ることができるのに。

 そんな颯ちゃんだから。
 ……わたしは。

「どうしよう。わたし……、絵里のこと」

 涙がせりあがってきて、こらえきれなくて、歩を止めてしまった。

「……由奈」

 風が吹いた。
 夕暮れ前の、さらりとした風。

「何があったのか、おれに話せる?」

 颯ちゃんの言葉に、わたしはこくんとうなずいた。