クラス対抗リレーは男女混合で行われる。最初に女子の代表3名が走り、後半は男子の代表3名が走るんだ。
 うちのクラスのアンカーは、颯ちゃんだ。

 森下くんと颯ちゃんが昼休みにバトンパスの練習をしているのを、クラスの女子たちが黄色い声を上げながら眺めていたっけ。

 川原さんたちのグループは、応援テントの前に出て、目を輝かせてスタンバイしている。

 森下くんの走る姿を、わたしはまだ見たことがない。

 颯ちゃんのは……、ある。風みたいに速い。

 小さい時から足は速かったけど、中学校から本格的に陸上をはじめて、ますます速くなった。

 一度、大会の応援に行ったことがある。

 りりしい顔も、ゴールテープを切ってみんなに囲まれる姿も、いつもそばにいてふざけあっている颯ちゃんじゃなくて、なんだか知らない人みたいに見えた。

 なぜだろう、ちょっとだけ淋しくて。
 わたしを追い越して、颯ちゃんがどんどん遠くに行ってしまいそうな気がして。

 わたしはそれ以来、颯ちゃんの大会を見に行っていない。

 颯ちゃんには「走ること」がある。「自分の芯」がある。

 でも、わたしには……。

 颯ちゃんは、わたしに「そのままでいろ」って言ったけど、本当にそれでいいのかな?

 森下くんのために「明るく、可愛くなりたい」って思ってたけど、それだけじゃなくて、もっと……。


 ピストルの音が響き渡って、わたしはわれに返った。