校舎を出て、裏の非常階段へ向かう。

 ここには大きな桜の木がそばにあって、張り出した枝の陰が落ちるから、たしかに涼しいし、よく風が通る。

 絵里はひとり、階段に腰掛けてスポーツドリンクを飲んでいた。
 うつろな目で、どこか遠くを見つめている……。

「絵里」

 そっとそばに寄って、声をかけた。

「由奈。……ごめんね。急に出て行っちゃって」
「いいの。それより大丈夫? 体調」
「うん。だいぶ回復したよ」

 絵里はそう言って笑ってみせたけど、その笑顔はいつもの、ひまわりのような溌剌としたものではなくて。
 どこか儚げで、何かを飲み込んで無理して笑っているような……。

「無理しないでね」

 わたしはそれだけしか言えなかった。

 きっと絵里は、まだ具合が悪いのに、やせ我慢をしているんだ。強がりな絵里ががんばりすぎないように、わたしがそばにいてちゃんと見ていてあげないと。

 そう思うのに。

――13時より午後の部が始まります。生徒の皆さんは各クラスのテントに戻ってください。

 放送が響き渡った。

 絵里は立ち上がると、「行こう」と笑った。

「ねえ、絵里」

「なに?」

「絵里って、もしかして」


――繰り返します、13時より午後の部が……


 再び響いた放送部の声に、わたしの問いはかき消された。

「由奈?」

「なんでもない。早く戻らなきゃね」

 わたしは絵里の手を引いた。

 聞けなかった。

 絵里。ひょっとして、森下くんと何かあったの? って……。