1年6組の教室は、がやがやと騒がしい。

 背の高い颯ちゃんの後ろに隠れるようにして、教室に入る。

 男子も女子もみんな、入学前からすでに仲のいいグループができあがっていたみたいで、それぞれ島をつくって盛り上がっている。

 ただでさえ人見知りのはげしいわたしは、どのグループの輪の中にも入っていけない。
 だから、幼なじみの颯ちゃんが同じクラスで、すごく心強かったんだ。

 そして、もうひとり。

「おはよーっ。由奈っ」

 ひまわりみたいな明るい笑顔をわたしに向けたのは、吉井絵里。
 小学校からの親友だ。

 急いで自分の席に荷物を置くと、わたしは絵里のもとに駆け寄った。

「おはよう、絵里」

 絵里が屈託ない笑顔でわたしの名前を呼んでくれるのがうれしくて、わたしも自然と笑顔になる。

「前髪いいじゃん」
 絵里は、にいっと笑った。

「やめてよ、恥ずかしい。失敗したんだからっ」

「失敗じゃないって。ね、三崎」
 絵里が颯ちゃんにあいづちを求める。

「ん、そだな」
 と、颯ちゃんはもごもごと口ごもった。

 颯ちゃんの席は絵里の隣だから、しょっちゅう、絵里とわたしの会話に颯ちゃんが巻き込まれるかたちになる。

「相変わらずシャイだなあ、三崎は」
 絵里は手を腰にやって、はあーあ、と大げさにため息をついてみせた。

 くるくる表情の変わる、チャーミングな女の子。
 びっくりするほど顔は小さい。
 つややかなショートボブがボーイッシュな印象だけど、目がくりっとまるくて、まつ毛も長くて、かなり可愛い。
 美少女なのにちっとも気取ったところがなくて、大きな口を開けてあははと笑う、さばさばしたところが魅力。

 みんなに好かれる人気者の絵里が、わたしみたいな地味な子と仲良くしていることが不思議で。一度、聞いてみたことがある。
「どうして、わたしなんかと一緒にいてくれるの?」って。

 そしたら絵里は、

「わたし“なんか”なんて言わないで、自分のこと。由奈は色白でお人形さんみたいに可愛いし、優しいし、まっすぐだし、まじめだし、人の悪口言わないし、いいとこいっぱいあるんだから!」

 と、ムキになって反論してくれて。

 更に、ちょっと頬を赤らめて、

「何よりあたしは、由奈のことが好きだから一緒にいるの。一緒にいると、楽しいの」
 と、言ってくれたんだ。

 それ以来、わたしは、絵里を「親友」と呼ぶことに引け目を感じなくなった。
 わたしも、もちろん絵里が好き。一緒にいると楽しい。

 ほんとうに、同じクラスになれてよかった。

 入学式を迎えるまで、期待と不安をてんびんにかけると「不安」のほうに大きく傾いていたのに、颯ちゃんと絵里の名前をクラス名簿に発見したとき、ほっとして涙が出てきたほど。

 きっと、すごく楽しい高校生活になる、って。

 でも。でもでも。まさかそれ以上に、心がふわふわ舞い上がってしまうような出会いが、わたしに訪れるなんて……。