やっぱり森下くんは、絵里のことを……。

 絵里、森下くんと何があったんだろう。いくら口止めされてたとはいえ、わたしに黙ってるなんて。

 絵里が出て行った教室のドアを見やった。

 どこに行ったの? 
 今、どうしてるの?

 親友なんだから、具合が悪そうだった絵里のことを追いかけるべきなのに、わたし……。

 がらりとドアが開いた。

「あっ、颯太だ」

 颯ちゃんは森下くんの姿を見つけると、すぐにやってきた。

「どこにいるかと思ったら、先に来てたのかよ」
「おせーよ。おまえこそ何してたんだよ」

 どうやら、ふたりは一緒にお昼を食べる約束をしていたみたいだ。

「つーか、智也探してたら、下で吉井に会った」
 颯ちゃんはわたしの隣の席の椅子を引いて座った。

 吉井、という単語を聞いたとたん、森下くんのほおがぴくっと動いた。

「あいつ……、大丈夫だったか?」

 森下くんはためらいがちにそう聞いた。

「自販機で冷たい飲み物買ってた。非常階段に座ってしばらく風に当たるってさ。なんかあったの?」

「いや、べつに」

 うつむいて言葉を濁す森下くんに、わたしはいたたまれなくなって、がたんと立ち上がった。

「わたし、絵里のとこ行ってくる」

 大急ぎでお弁当や水筒を片付ける。

 颯ちゃんがきょとんとした目でわたしを見上げている。

 ごめん、わけわかんないよね。わたしもわかんないんだ。

 ただ、なんだか嫌な予感がするの。

 絵里の体調を気遣う森下くんの、真剣な目。
 森下くんも絵里も隠している、ふたりがスーパーで偶然会った時の話。
 不自然なほどつっけんどんな、絵里の森下くんへの態度。

 不安が、灰色のもやになって胸の中をぐるぐる渦巻く。

 わたしは教室を出て、階段を駆け下りた。