「何だよ。何で怒るんだよ。おれ、なんか、おかしいこと言ったか? ただ、心配だっただけなのに」

 悔しそうにつぶやく森下くん。
 たまらない気持ちになって、わたしは、

「ごめんね」
 と、告げた。

「なんで由奈ちゃんが謝るの?」
 森下くんは少しだけ笑った。

「だって。絵里があんな態度取るのは……」

 きっと、わたしのことを気にしているから。
 わたしの目の前で、森下くんに気遣ってもらうわけにはいかない、優しくしてもらって、へんな誤解をさせるわけにはいかないって思っているんだろう。

 だけどそんなこと、まさか森下くん本人に言えるわけない。

「吉井って、すげー頑固っつーか、強情だよな」

 森下くんはため息をつくと、自分の後頭部をわしわしと掻いた。

「ほんと、何考えてるんだろ。ふたりでいるときは明るくておもしろくて楽しい奴なのに、時々すっげー冷たいんだよ、おれに対して」

 寂しそうに目を伏せる森下くんに対して、わたしはそれ以上かける言葉を持たなかった。

 それに。

 ふたりでいる時、って、なに……?

「あー、おれもさっさとメシ食おっ」

 森下くんは、さっきまで絵里が座っていた席にどかっと腰を下ろすと、手にしていたコンビニの袋からやきそばパンを取り出した。

「お昼、それだけ? 足りる、の……?」
「ああ。今朝は寝坊して弁当作る時間なくってさ。そのへんで適当に買ってきたんだよ」

「自分で作ってるの?」

 びっくりして、手にしていた水筒を取り落としそうになってしまった。

「うん。うち、母親ひとりだからさ。んで、小学生の妹もいるし。家事とか色々やってんのよ」

「そうなんだ。全然知らなかった」

 そんなこと、ちっとも態度に出さないから。
 颯ちゃんも何も言わないし。知らないはずはないよね?

 わたしの心を読んだかのように、森下くんは、

「颯太にも吉井にも、おれが口止めしたの。だって由奈ちゃん、今みたいに『大変だな、苦労してるんだな』って顔するだろ?」

 さらりと言って、笑った。

「そんな、こと。ただ、驚いただけで」
 うつむいて、もごもごと口ごもった。

「いいんだよ。っつーかおれだって家事全部ひとりで負担してるわけじゃねーし。弁当は、自分のことだし。それにさ、どっちみち、みんな進学して家出てひとりで暮らすようになったらやらなきゃいけないんだよ。料理も洗濯も」

「……ん。でも、やっぱりすごい」

「そういうのもナシね、すごいとかえらいとか」

「……はい」
 たしなめられて、しゅんと肩を落とした。

 だけど、気になることがもうひとつ。

「絵里も知ってたの?」

「まあね。妹と一緒にスーパーで買い物してたら、ばったり吉井に会ってさ。んで、立話ししてたら妹が吉井になついて。そんで、まあ、いろいろ」

 いろいろ、の具体的な内容については、森下くんは何も言わなかった。
 ただ、頬が……赤い。

 胸が絞られたみたいに、ぎゅうっと、苦しくなる。