教室の後ろのほうで、友達と一緒にはしゃぎながらお弁当を食べている川原さんのほうを見やる。
 全然体調悪そうに見えないんだけど。

 なんだかもやもやする。
 まさか、大変な仕事を全部絵里に押し付けてるってわけじゃないよね? 森下くんのこともあるし……。

「ごちそうさま」
 絵里は小さくつぶやくと、自分のお弁当箱のふたを閉めた。

「えっ? まだ半分以上残ってるよ」
「ん、なんだか食欲なくて」

 そんな。絵里のほうこそ具合悪いんじゃ……?
 養護の先生のところに行って休ませてもらったら、と、言おうとしたとき。

「吉井」

 低い声がして、ふり返る。

 森下くんがわたしの背後にいて、険しい顔つきで、絵里のことを見ていた。

「食べなきゃもたねーぞ?」

「見てたの? 趣味悪い。ほっといて」

 絵里は眉を寄せると、そそくさと自分のお弁当箱を包みはじめた。
「調子悪いんだろ? 午後から涼しいところで休ませてもらえ」

「ちょっと疲れてるだけだから。心配しなくても、リレーもばっちり走れるから迷惑かけないよ」

 絵里はそっぽを向いてしまった。

「リレーの心配なんかしてねーし」

 森下くんは怒ったような口調でつぶやいた。
 そして、少しの間があって。

「俺は吉井の体調を心配してるんだよ」

 と、きっぱりと言った。

 森下くんはこれまで見たことがないぐらい真剣な顔をしている。

 胸の中がざわざわした。

 わたしだって絵里のことを心配している。体調悪いなら休んでほしいって思ってる。
 なのに……。

「森下くんの言う通りだよ」って、言いたいのに。
 言えない。

 絵里は森下くんの言葉には何も答えず、無言で席を立つと、そのまま教室を出て行ってしまった。