まさか颯ちゃんにほめられるとは思ってなかったから、調子がくるってしまう。

 わたしのすぐ横に並んで歩き始めた颯ちゃんは、背が高くて、手足も長くて、まるでモデルみたい。

 さらりとした黒髪。かたちのいい眉。目はぱっちりと大きいけど、目じりはすっと上がっていて、シャープな印象。

 颯ちゃん――三崎颯太くんは、家が隣同士で、小さい頃から一緒に遊んでいた、幼なじみ。

 小学生のころは、わたしより背が低かったのに、中2ぐらいからぐんぐん背が伸び始めて、いつの間にか追い抜かれていた。

 そのころから、女子にキャーキャー騒がれるようになって……。

 幼なじみのあたしは、嫉妬を受けて嫌がらせされる……かと思いきや、
「葉山さんは地味すぎて三崎くんとはつりあわない」とか、「葉山さんならぜんぜん心配ない」とか言われて、ジェラシーの対象にすらならなかった。

 そのかわり、颯ちゃんあての手紙をことずけられたり、告白のために颯ちゃんを呼び出すお手伝いをさせられたり。
「協力して!」と頼まれることが多かった。

 強く押されると嫌と言えないわたしが、颯ちゃんとほかの女の子の仲を取り持とうとするたびに、颯ちゃんはむすっと眉を寄せて不機嫌な顔になった。

 きっと、女の子に騒がれるのが苦手なんだろう。「恋愛とか興味ない」と言って、女の子の告白を断っていたらしいし。

 「恋愛に興味ない」っていうのは、わたしも同じ。
 興味どころか、颯ちゃん以外の男子が苦手だった。
 昔、男子に、面と向かって嫌なことを言われたり、からかわれたりしたことがあるから。

 だからわたしが男の子のことを好きになるなんて、ありえないって思ってた。

 ありえないはずだった。

 まさかわたしが、恋をするなんて。

 地味であか抜けない自分を変えて、かわいくなりたい、太陽みたいに明るくなりたい、って、思うようになるなんて。