「由奈。溶けるぞ」

 颯ちゃんに言われて、我に返った。

 あわててアイスを食べる。
 冷たくて、舌のうえですっと溶けていく、上品な甘さ。

「由奈はアイスと言えばバニラだよなあ。昔っから、ぜんぜん冒険しない」

「だって好きなんだもん」

 あんなにたくさんの種類のフレーバーがあったのに、結局スタンダードなバニラを選んでしまった。迷った挙句、トッピングもしなかったし。

 アイス選びレベルでも守りに入ってしまうわたし。つまんない人間だよね……。

 なんて、マイナス思考の沼に落ちてしまいそうになった時。

「おれの、ちょっと食う? これ、いちごの果肉入りだぞ」

 颯ちゃんが、自分のアイスのカップを差し出した。

「えっ? いいの? ありがとう」

 颯ちゃんのストロベリーアイスを、自分のスプーンでちょこっとすくった。

「おいしっ! 甘酸っぱい」
「だろ?」

 ふと、視線を感じた。
 森下くんがにやにや笑いながらわたしたちを見やっている。

「やっさしーな、颯太は」
「べっつに?」
「っつーか、さすが幼なじみ。距離感近いっつーか」

 そんなふうに言われて、わたしはきょとんと目をしばたたいた。

 なにか変だった? 距離感?

「すっげー仲良くて羨ましいなーってイミだよ」
 森下くんは片肘をついて、にいっといたずらっぽい笑みを浮かべた。

「俺にも由奈ちゃんみたいな、可愛い幼なじみがいたらなー」

「かっ……」
 可愛い? わたしのこと?

 森下くんはじっとわたしを見つめている。
 ドキドキして、顔が熱くて、わたしは思わずスプーンを落としてしまった。

「そういうリアクションもいちいち可愛いし」

 森下くんは更にたたみかける。

「由奈のこと、からかうんじゃねーよ」
 颯ちゃんはむすっとふくれると、森下くんのことを軽くにらんだ。

「からかってなんかないけど。可愛いと思ったからそう言っただけ」
 森下くんはさらりとそう言うと、自分のアイスをすくって食べた。
「颯太もそう思ってんじゃん?」

「今さら可愛いも何も。兄妹みたいなもんだから」
 颯ちゃんは、そっけなく答えた。

「そ、そうだよ。近くにいるのが当たり前だったんだもん。ほ、ほぼほぼ兄妹だし」
 わたしはがんばって反論した。

 反論、っていうか……。

 ちゃんと森下くんに伝えておかなきゃと思ったんだ。

 わたしと颯ちゃんは、たんなる幼なじみなんだってことを。

 颯ちゃんがどんなにかっこよくなって、女の子たちからキャーキャー騒がれるようになっても、変わらない。

 わたしにとって颯ちゃんは「大切な幼なじみ」で、それ以上の感情なんてない。