どうして、君のことばかり。

 どきんと心臓が跳ねる。颯ちゃんの頬は、火照っていて、熱を持っている。

「由奈……、俺」

 颯ちゃんは苦しそうに目を伏せた。

「うん」

 颯ちゃんが、今までひとりで抱え込んでいた気持ちの出口を探して、さまよっているのがわかる。

 わたしに、伝えようとしてくれているのがわかる。

 わたしの手のひらは、颯ちゃんの頬を包み込んだまま。

「あのね。……泣いても、いいんだよ?」

 そっと告げると、颯ちゃんはくすっと笑って、そして……。

「由奈の前だと、俺、泣けるかもな」

 小さく、つぶやいた。

「親父のことが好きだったんだ。なのに、裏切られて、……許せない」

「うん」

「許せないのに、母さんと別れてほしいと思ってたのに、寂しいとか……おかしいよな、俺」

「おかしくなんて、ないよ」

「由奈」

 颯ちゃんはまっすぐにわたしの目を見つめた。
 その、大きくて透き通った瞳に、わたしの姿が映っている。