慣れない下駄で、人にぶつからないように歩くのに気をとられていて。
 道のくぼみにつまづいて、わたしはよろけてしまった。

 転ぶ寸前で、颯ちゃんがわたしの腕をとった。

「大丈夫か、由奈」

 颯ちゃんはそのまま、わたしの手をきゅっと握った。

「……こけないように。はぐれないように」
「う、うん」

 手をつないで歩く。
 わたしたち、つきあってるんだ、という実感がじわじわ湧いてきて、頬が火照って、どきどきしてしまう。

「あっ。くじ」

 くじ引きの屋台の前で、颯ちゃんが歩を止めた。

「懐かしいなー。由奈、昔、指輪が当たらなくて拗ねて泣きじゃくったよな」

「そ、そんな昔のこと、よく覚えてたね」

 まさか颯ちゃんの記憶に残ってるとは思わなかった。

 わたしが熱を出した日の夜、見た夢。

 金魚柄の浴衣を着た、小さなわたしと、甚平を着た、小さな颯ちゃん。
 わがままを言ってみんなを困らせてしまった、幼いわたし。

「くじ、引いてみる? 指輪当たるかもよ」

 颯ちゃんは意地の悪い笑みを浮かべた。

「もうっ。やめてよ」

 そんな大昔のことを蒸し返してからかわないでほしい。

「ほら、あるじゃん。おもちゃの指輪。5等だから何度かやれば当たるんじゃね?」

「ほんとだ」

 赤い、ルビー風の大きなプラスチックの石がはめ込まれた指輪。
 確かに、記憶の中の指輪に似ている気がする。
 あれから10年は経ったのに、屋台のおもちゃって、進化してないんだろうか。

「ちょっと、やってみようかな」

「いいじゃん。10年越しのリベンジ」

 くじは、一回200円。
 屋台に群がったちびっこたちに混じって、わたしは5回も引いて、結果、……当たらなかった。

「うう……。なんか悔しくなってきた」

「当たるまで引く気?」
「でも、もう千円も使っちゃった。おもちゃの指輪のために……。千円あれば絵里のバイト先のカフェでケーキセット食べられるのに」

 颯ちゃんは、くすっと笑った。

「んじゃ、次は俺が引く」

 颯ちゃんは屋台のおじさんに200円を渡すと、くじを引いた。

「5等だ。当たった」

「う、うそっ」

 わたし、5回も引いて全部はずれたのに、颯ちゃんは一発で当てたの!?

「やっぱ、俺、持ってるな」

 にいっと笑うと、颯ちゃんはおじさんから景品の指輪を受け取った。