森下くんは、ずっと絵里と押し問答してる。

「今度から吉井のこと『吉井様』って呼ぶからさあ」
「あんたに女王扱いされたところで」

「ところで吉井。アイスとケーキ、どっちが好き?」
「は? 急に話変わりすぎでしょ」
「いいからー。どっち?」
「ア、アイスだけど……」
「ふーん」

 森下くんはにやりと笑うと、絵里のノートをさっと取り上げた。

「んじゃ、アイスで決まりね」
「なにが?」
「最近、並木坂通りにアイス専門店ができたらしいんだよ。今日の放課後、部活休みだから、そこでおごる。だからこれ、写させてね」
「待ってよ。そんな一方的な取引……」

 絵里は眉を下げてわたしを見た。

 絵里、ごめん。わたしがぐずぐずと勇気を出せなかったせいで、そんな困った顔をさせて……。

 絵里はふうっとあきらめのため息をつくと、

「わかった。そのかわり、由奈も一緒に行くから」
 と、言った。

 わ、わたしもっ? 
 いきなりの展開に、心臓がバクバクしはじめた。

「由奈ちゃんも? いいよ、一緒に行こう」 

 森下くんはにっこり笑った。

 まぶしすぎる笑顔に、くらくらする。

「んじゃ、颯太も誘って、4人で行こっか」
 さらりと、森下くんはそうつけ加えた。

 颯ちゃんも……。

 よかった。
 颯ちゃんも一緒だと思うと、なぜかほっとした。

 森下くんと放課後過ごせるのはうれしいけど、どきどきして何を話していいかわかんないもん。
 つまらない子だって思われたらいやだし、絵里にも負担になるかも。

 さっきも結局、絵里からのパス、うまく生かせなかった。もどかしい思いをさせるかもしれない……。

「それじゃ、これ、急ぎで写させてもらうわ。まじ、ありがとうな。吉井」

 森下くんは人懐っこい笑顔を絵里に向けると、ノートを持って自分の席に戻っていった。