困らせたくなかった。
 家のことで辛い思いをしている颯ちゃんの負担に、なりたくなかった。
 優しい颯ちゃんは、わたしの告白を断るのに、心を痛めてしまうだろうから。

「こんなこと言ってごめんなさい」

 目を伏せたわたしの右手を、颯ちゃんがそっと掴んで。
 そのまま、引き寄せた。

「えっ……」

 わたしのおでこが、颯ちゃんの胸に、こつんとぶつかる。

「好きだ、由奈」

 わたしの手を握っている颯ちゃんの手が、燃えるように熱い。

 そして、わたしの手も。
 顔も。
 熱くて……、
 耳のうしろ、指の先まで、ぜんぶがとくとくと脈打っている。

「好きだ」

「颯ちゃん……」

 信じられない。

「俺も、言わないつもりだった。失恋したばかりで弱っている由奈に、つけこむような真似をしたくなかった。なのに何度も、告げてしまいそうになって」

 颯ちゃんの声が、耳元で、低く、切なげに響く。