遠回りになるけど、大通りに出ずに住宅街の中を縫うように歩いて行けば、虹は何にも遮られずに見えるはず。

「そうだな」

 ふたりで、脇道に入る。

「昔、虹の根っこはどこなんだって探しに行って、ふたりで迷子になったこと、あったよね? 小1か、2ぐらいの時」

「あったあった。しかも、学校帰りだった。めちゃくちゃ怒られたよな?」

「わたし、お母さんに泣かれちゃったもん。いつまでも帰ってこないから、何かあったかと思った、って」

「懐かしー」

 颯ちゃんは笑った。

 行きかう家々の、庭の木々が、雨粒をまとってきらきら光っている。
 道の端っこに大きな水たまりができていて、小さい子が入ろうとしてママに怒られている。

 穏やかな時間が流れている。

 このまま、いつまでもふたりで歩いていたい。

「それにしても」

 颯ちゃんはつぶやくと、くくっと、思い出し笑いをした。

「なに?」

「いや、吉井の話。俺、びっくりして。まさか由奈が、吉井をかばって啖呵切るとか」

「啖呵切ったとは言ってないでしょ! 話を大げさにしないでよっ」

 ムキになってしまう。
 どうして蒸し返すかなあ、それ。

「由奈すげーじゃん。自分が色々言われたらすぐ泣いてひきこもるのに」

 ひきこもるとは何よ。
 わたしはむすっとむくれて、

「あの時は、絵里を守りたい一心だったから」

 と、ぶっきらぼうにつぶやいた。

「誰かのためなら、強くなれるんだな。由奈は」

 颯ちゃんのまなざしが優しくて、わたしはどぎまぎしてしまう。

「でも、さ。もう、これ以上強がらなくてもいいんじゃないか?」

「え?」

 何の話? わたしは思わず、立ち止まった。

「今日だって、無理して来ることはなかったんじゃねーのか?」

「無理してって……どういうこと?」