翌日の、朝。

「お願いっ! 吉井! 見せてっ!」

 絵里の席の前で、森下くんが両手を合わせている。

「まじ一生のお願い!」

 リーダーの課題をすっかり忘れていたらしい森下くんは、絵里が英語が得意と聞きつけて、写させてと懇願しているんだ。

「ありえない。ひとが一生懸命頑張った課題を、簡たんに『写させて』とか、よく言えるよね?」

 絵里はつれない。
 ちょっと冷たすぎない? 見てるわたしがハラハラしてしまう。

 すると絵里は、そばにいるわたしに、ちらっと目線を送った。

 えっ? 何?

 絵里は、口パクで何か言ってる。

 ……由奈が、見せて?

 あっ! そういうことか!

 にぶいわたしは、ようやく絵里の企みに気づいた。
 わたしが森下くんに課題のノートを貸すように促してるんだ。

 そうだよね、これはチャンスだ。ノートの貸し借りで森下くんと話す機会が増えるし、笑顔で「ありがとう」とか言ってもらえるかもしれないし……。

 想像すると、かあっと顔が熱くなった。

 でも、わたしの課題、眠いのを我慢しながらやったから、後半はやっつけになっちゃったし、間違いがたくさんあるかも。字も雑になってるし……。 

 わたしはぶんぶんと首を振った。
 そんなことに構ってられない! 
 せっかく絵里がいいパスを送ってきてくれてるんだ。これを受けずにどうするの!

「あ、あの」

 がんばって話しかけようとするけど、声が小さくて届かない。