夕方5時を回った頃。わたしと颯ちゃんは、森下くんを置いて、先においとました。

 絵里の家族が帰ってくる前に、ちょっとでもふたりきりの時間を作ってあげようと、気をきかせた……つもり。

「あ。雨、止んでるね」

 マンションの外に出ると、もう雨は降っていなくて、空にはわずかに晴れ間がのぞいている。

「あっ、虹」

 思わず、叫んだ。
 住宅街の家並みの向こうに、細いきれいな虹がかかっているのを見つけたんだ。

「どこ?」
「ほら、あそこ」
「ほんとだ。すげー」

 颯ちゃんは笑った。
 子どもの頃みたいな、無邪気な笑顔。
 胸がきゅっと苦しくなった。

「写真撮ろ」

 颯ちゃんはスマホのカメラを空に向けた。

「その写真、あとでわたしに送って」

「オッケー。すごくきれいに撮れた。俺、才能あるかもしれない」

 大通り沿いの歩道を、ふたり並んで歩く。

「あっちから帰ったほうが、ずっと虹見えるんじゃない?」