「いや、遊んでたとか、そういうんじゃないっぽいから。彼氏彼女ってやつに憧れて、告られてつきあってみたけど、どの子にも『なんか違う』って言ってふられたらしい。もっとも、智也自身もそんな風に言われても特に傷つかなかったから、きっと『恋愛ごっこ』をしてみたかっただけなんだろうな、って」

「ふう……ん」

「だからさ。あいつも、確かにもてることはもてるけど、奥手な由奈と大して変わんねーよ」

 うつむいてしまったわたしを、颯ちゃんが明るく励ました。

「颯ちゃん」
「ん?」
「ありがとう。その、色々、聞き出してくれて」
「何だよ改まって。ま。正直俺も興味あったから」
「森下くんの恋愛話に?」
「まーな」
「意外。颯ちゃんって、まったくそういうのに興味ないのかと思ってた」
「まったく興味ないってことは……、ねーよ」

 そうつぶやくと、颯ちゃんはわたしから目をそらした。

 どうしてだろう。夕暮れのオレンジに照らされたその横顔が、少し……、さびしそうに見えた。
 だから、

「わたしも、協力するからね!」

 わたしは思わず、明るい声をあげたんだ。

「は? 協力?」
「うん。もしも颯ちゃんに好きな人ができたら、わたし、精一杯協力するから!」

 とびっきりのスマイルを向けたのに、颯ちゃんは苦笑い。

「ばーか。由奈には無理だよ」
「えっ? な、なんで?」
「なんででも、だよ」

 そう言って、わたしの頭に手をのばして……。
 いつもみたいに、くしゃっと、頭をかきまぜられると思って身構えたのに、颯ちゃんはためらいがちに手を引っ込めた。

「颯、ちゃ……」

 また、だ。
 また、颯ちゃんの瞳が、切なげにかげっている……。

 と、思った瞬間。

「じゃーな。さぼらずに、ちゃんと課題やれよ」

 颯ちゃんは、いつもの調子で明るく言って、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

「なっ……! そんな、先生みたいなこと言わないでよっ」

 そういえば、リーダーの課題が大量に出てたんだった。
 嫌なことを思い出しちゃったよ。

 颯ちゃんは、くすくす笑いながら、自分の家の敷地に入っていった。