どうして、君のことばかり。

 気持ちを告げるつもりはないけど、わたしと颯ちゃんには、小さい頃から積み上げてきた絆のようなものが、たしかにあるはずだと信じたかったから。

 もう少しだけ、「幼なじみ」のポジションに、甘えていたい。


 いつもの坂道をゆっくりと歩いていく。

「わたしね、家庭科部に入った」

「へえ。昨日そういう話してたけど、早速? 由奈にしては行動早いじゃん」

「ちょっと見学するだけのつもりだったんだけど、なんか、あっという間になじんじゃって」

「良かったじゃん」

「それでね。わたし、カップケーキ作って……」

 歩道のはしっこに立ち止まって、リュックを降ろしてごそごそしていたら。

「颯太!」 

 自転車で走ってきた男子生徒が、颯ちゃんの名前を呼んで、きゅっとブレーキをかけた。

「先輩」

 ども、と、颯ちゃんはぺこっと会釈する。

「ふーん。この子が噂の彼女かー」

 颯ちゃんの「先輩」は、じろじろと値踏みするようにわたしを見た。

「結構可愛いじゃん。清楚系?」

 颯ちゃんは、一瞬顔をしかめると、さっとわたしの前に出て、わたしを先輩から隠した。

「いや、別に、彼女じゃないですから」

 固い声で、告げる。

 彼女じゃ、ない……。
 ちくんと、胸にトゲが刺さる。

 彼女じゃないのは事実だし、わたしだって告白するつもりはないし、今のままの関係でじゅうぶんだと思ってる。

 なのにどうして、「彼女じゃない」と告げた颯ちゃんの硬い声に、傷ついてるの?

 わたしだって、山根さんに「彼氏でしょ」って言われたときは、思いっきり否定したくせに。なのに、……。

「そんなに警戒すんなって。アオハルしてて羨ましいなーって言いたいだけ」

 先輩は、へらへら笑った。
 颯ちゃんは、

「だからそんなんじゃないです。たんなる幼なじみですから」

 と、頑なに言い張る。

「わーったわーった」

 先輩は茶色がかった髪をふわっとかきあげて、ふたたび自転車をこぎ始めた。

 大きく息をつくと、颯ちゃんはわたしに、

「ごめんな」

 と、つぶやくように言った。

「な、なにが?」

「いや。先輩、由奈のことじろじろ見てたし、あれこれ言ってたから」

「気にしてないから」

 本当は、見た目をジャッジされているみたいで、かなり嫌だったけど。

 それよりも、颯ちゃんのほうが……、嫌な気持ちになったのかもしれないと思うと、いたたまれなかった。

 颯ちゃんは、やれやれと言いたげにため息をついた。

「なんか、俺たち、最近変な勘違いされてるみたいで。部活んとき、結構言われるんだよ」

 変な勘違い……。

 付き合ってるって思われてる、ってことだよね。さっきみたいにからかわれたりしてるんだ。

「ごめん、颯ちゃん」

 低い声で、つぶやいた。

「何が?」