翌日、わたしは家庭科部に見学に行って、その場ですぐに入部を決めた。

 颯ちゃんが部活に行っている間、何もすることがないから、という理由だけじゃない。

 もともと、何か新しいことを始めようかなと思っていたから、これを機に、って感じ。

 ちょっとずつでいいから、世界を広げなきゃ、って思った。

 わたしは今まで、いつも颯ちゃんや絵里に頼って、甘えてばかりだった。

 だけど、颯ちゃんは肝心なことをわたしに黙っていた。
 ひとりで悩み続けていたのに、まったくそれをわたしに悟らせなかった。

 寂しかった。

「妹みたいな存在」なんて、卒業したい。
 強くなりたい。
 対等になりたい。


 家庭科部はすごく雰囲気がよくて、先輩たちは、男子も女子もおっとり優しい人ばかりだった。
 ちょっと見るだけのつもりだったのに、気づいたら一緒にカップケーキなんて作っていて……。
 それが、すごく楽しくて……。

 結果、即、入部。

 ふわふわした足取りで、家庭科室を出る。

「葉山さん! 一緒に帰らない?」

 同じ一年生の山根真理さんが、わたしを呼び止めた。

「といってもわたしは電車だから、駅のほうに行くんだけど……。葉山さんは歩きだよね? 家どこ?」

「大江町のほうだよ」

「だったら、途中までだね」

「う、うん」

 山根さんは元気が良くて、明るくて、料理がすごく上手な女の子。
 仲良くなりたいし、せっかくこうして声をかけてくれたのに、申し訳ないけど。

「ごめんね、わたし、ほかの人と帰る約束してて」

「あー。そっか」

 あっけらかんと山根さんは言った。

「だよね。彼氏と帰るよね」

「えっ。か、か……」

「彼氏でしょ? 陸上部の、背が高くてめっちゃかっこいい人」

「べつに彼氏じゃ」

「でも、そのひとと帰るんだよね? よく一緒にいるから、目立ってるよ」

 山根さんはにいっと満面の笑みをうかべて、

「いいなあー。あたしもカレシほしいっ」

 と、わたしの背中をぽんっと叩いた。

「だ、だから、彼氏じゃ」

「葉山さんってすっごい恥ずかしがり屋なんだね。めちゃくちゃ赤くなっててかわいい」

「か、かわいい……!?」

 からかってるの!?

「じゃあね。イケメン彼氏さんによろしくっ」

 ひらひらと手を振ると、山根さんは軽やかに去っていった。