うつむいたまま、わたしは歩き出した。

「それにしても、どういう風の吹き回し? 吉井に付き合って、練習終わるの待ってるとか」

「い、いいじゃんべつに」

 颯ちゃんが走るところを、しっかりと目に焼き付けておきたかった。

 だけどそんなこと、言えるわけない。

「ヒマだったし」

 ぶっきらぼうに告げた。

「由奈も、なんか部活始めれば?」

「そうだね。園芸部はないから、家庭科部とかかなあ? 絵も音楽もセンスないけど、料理だったら何とかなるかも」

 どきどきをごまかしたくて、いつもより早口でぺらぺらとしゃべってしまう。

「いいんじゃない? 由奈が作ったバナナパウンドケーキ、かなり美味かった」

「あ、あれは、お母さんが色々教えてくれたから」

「由奈んちのおばさん、ほんっと料理美味いもんな」

 そこで颯ちゃんは、言葉を一旦、切った。

「母さんが、また遊びに来いって言ってる」

「わたしに?」