練習が終わって、部室から颯ちゃんたちが出てくる。

 森下くんはまっすぐに絵里のもとへ駆けよった。

「暑かったろ? ふたりとも」

「うん。めっちゃ暑かった」

「教室で待ってればよかったのに」

「ん。でも、ま、たまにはあんたたちの走ってるとこ見るのも、悪くないかなって」

「ふーん?」

 森下くんはわたしのほうをちらっと見た。

「で、どうだった? なかなかかっこよかったっしょ?」

 にいっと、笑う。

「え?」

「あ、由奈ちゃんは俺のことなんて見てないかー」

「も、森下くんっ」

 颯ちゃんもいるところで、なんてことを。

 ていうか森下くん、結構前から、わたしと颯ちゃんをたきつけるようなことをよく言ってたよね?

 もしかして最初から、わたしたちのことを……。

「じゃ、俺。今から絵里と寄り道して帰るから。由奈ちゃんと颯太も、ふたりでゆーっくり帰って」

「ちょ、智也っ」

 絵里が声をあげる。

 森下くんは絵里の手を取って、強引に自分のほうへ引き寄せると、そのまま連れ去るようにして足早に去っていった。

「……なんなんだ、あいつ」

 取り残された颯ちゃんは、いぶかしげに首をひねっている。

 いたたまれなくなって、わたしはうつむいた。

 あんなにあからさまに、わたしたちをふたりきりにさせようとしなくていいのに。
 家が隣なんだから、どうせ途中からふたりで帰ることになるんだし。

「由奈?」

 颯ちゃんがわたしの顔をのぞきこんだ。心配そうに眉を寄せている。

 いけない。颯ちゃん、何かを怪しんでいる。
 颯ちゃんが、もしもわたしの気持ちに気づいてしまったら……。

「ね、ねえっ。さっきの見た? 手、つないでたよね。あのふたり」

 慌てて明るい声を上げた。

「絵里も、いつの間にか森下くんのこと、智也って呼んでたし」

 わたしの前では「あいつ」呼びなのに。